視覚障害者の就労については、行政機関をトップとして、NPOや任意団体などの努力により、ずいぶん進んできた印象がある。本当は統計データを示せば説得力のある説明ができるとは思うが、それはめんどくさいので、「昔に比べてずいぶん一般企業に就職する視覚障害者は増えた」と、感覚論で言うことにするが。

一般企業に就職するといった場合、一般的な総合職・事務職と、視覚障害者の場合はヘルスキーパーという職種での採用もある。現状、鍼灸免許を持ってる盲人が多いので、就労といった場合も、ヘルスキーパーとしての採用は多い。

さて、いずれにしても、まずは「雇用を促進する」という観点において、視覚障害者が働く上での環境整備、法整備といった点では、かなり整ってきているものと思われる。ただ、昨今の雇用情勢を鑑みると、「だから良くなっている」とは言い難い。

とりわけ、支援機器の導入に関する補助金があったり、あるいはそうした支援機器を活用した職業訓練が成果を上げている一方、実際に起業に就職できた視覚障害者が突き当たる多くの問題についての対策については、認識されているかどうかも怪しい状況である。いや、就職後の問題について認識されてはいるが、まずは門戸を開くことが優先でそっちまで手が回っていない、というのが現状なのかもしれない。

視覚障害者、特に全盲が、一般の企業・団体で就労してから困る問題として、コミュニケーションが挙げられる。会話はできるから特に問題ないと思われがちなコミュニケーション、じつは結構困る。

例えば、用事があって同僚のAさんに声をかけようと思って声を出すも、Aさんは席にいないということがある。だれもいないのに話しかけるのは、恥ずかしいものだ。当然、周囲は「そうした行為はしかたがない」と認識しつつも、逆に本人からすると恥ずかしいと思ってしまう場合があるのだ。

これはかなり軽度な問題であるが、重度化してしまうとやっかいなコミュニケーション問題もある。それは、「私には周囲の助けが必要なんだから、不必要に同僚との関係を悪くしてはならない」と思ってしまい、視覚障害者が同僚に対して必要以上に遠慮してしまうことである。軽いことでいうと「飲み会を断れない」とか、致命的になると「本当はその意見に反対だけど、反対すると関係が悪くなってしまうかもしれないから、しかたなく賛成する」といった考えになってしまう人もいる。また、受け手はどうであれ、相手が善意で行ったと思われる行為に対して、善意として受け止めるために、常に笑顔で振る舞ってしまうなどということもある。

以上は私が体験したり見聞きしたことをいい加減に記述しているものだが、「就労による視覚障害者の精神状態の変化」については、もっと光を当てて、ケアの対象とすべきである。確かに就労においては機器や周辺環境の整備も大事だが、それ以上に、職場で視覚障害者と健常者がどうやってコミュニケーションしたら良いかということ、そして、重要なこととして、視覚障害者自身がどのような心の持ち方で仕事や同僚に向き合うべきか。こういった点のケアやカウンセリングをもっと重視すべきである。

繰り返すが、基礎的な業務の能力を育てることは大切である。私の持論として、視覚障害者には中級以上のITリテラシが必要だ、というのもある。が、個人が努力する部分は努力してもらうとして、経験しなければ分からないメンタル面や対人コミュニケーションのケアは、「就労」と同じかそれ以上に取り組んでいかねばならない問題である。ので、宜しくお願いします。JAWSの使い方も大事だけど、働き始めてからどうやって人とコミュニケーションを取るか、とか・・・。「無理に笑顔を作る必要はないんですよ」みたいなこともちゃんと教えてね。