昨日ごにょごにょとエントリーを書いたので、ついでに、具体的に仕事をしていて困ることについて書いてみようと思う。全盲限定で。

一般に、IT技術の進歩により、情報弱者だった視覚障害者は、以前に比べ多くの情報を取得できるようになったし、発信できるようになった。そして、仕事でITが活用され始めると、その領域で活躍できるチャンスが、視覚障害者、とりわけ全盲にもめぐってきた。

きちんと掘り下げると、今より2,30年以上前、全盲の仕事として「プログラマ」が注目され、当時プログラマとして活躍していた全盲もそれなりにいたようだ。

だが、それも過去の話。細かいことは省略するけど、いつのまにか「プログラマ」はおじゃんになって、今度はエンドユーザとしてITを活用した就労を考える時代となった。仕事でPCを使うのが当たり前の昨今、PCを活用できる全盲なら専門知識がなくても就労できる可能性が広がった、ということである。

けれど、実際のところ、それなりにPCを使いこなしている全盲でも、健常者と肩を並べて仕事してみると、驚きや落胆を経験することが多いはず。何より、困り果てることも多いのではなかろうか。

例えば、大多数の会社では、資料作成にWordとかExcelを使うと思うが、まず、健常者が作ったこれらのファイルを読むにはだいぶ慣れが必要だ。読み上げソフトが正確に読み上げないという問題もあるし、書式がバラバラで読み解くのに苦労することもある。そして、全盲にはほとんど理解できないであろう「色」を用いて、文書の直感的理解を促すようなケースが多い。

また、別の例として、会社のメールソフトとかグループウェアがぜんぜん操作できなくて、情報共有に支障が出る、というようなことも、全盲だったら有り得る。読み上げソフトでどう頑張っても読めないし操作できないシステムというのは、業務システムには割と多い。ただ、本当は、高機能な読み上げソフトを高レベルで使いこなせれば、実は使えるシステムだった、というケースも少なくないけれど。

余談だが、どこぞのなんとかという読み上げソフトは、「スクリプトを書けば読めないアプリケーションも読めるようになる」的なことがカタログに書いてあるけれども、あれは間違いだ。「読みにくい、あるいは操作しにくいアプリケーションが、読みやすく・あるいは操作しやすくなる」ということであって、そもそも潜在的に読めない/操作できないアプリケーションはスクリプトを書いたってなんともならん。反論したい方がいましたら、AccessBridgeを使っていないJavaのGUIアプリケーションを読み上げさせてみて下さい。 (FXとかは大丈夫なのかもしれんが、よく知りません)

この辺は、もうなんというか、慣れるか、あきらめるかのどちらかしか選択肢がない。まぁ、「慣れる」という選択肢の場合だと、いろいろ細かなテクニックはあるけど、まぁ面倒だからいいや。

これら以外にも、PCをそこそこ使いこなせていても、働いてみると落ち込むことはたくさんある。まぁ、2,3年我慢してればたぶんその辺の解決策は経験的に修得できると思うのだが...。もちろん、ただその場をしのいでいたってどうにもならない。変な話、仕事の経験を積むのと同じように、健常者の感覚や文化を理解していく手順が必要だ。

一方、本人の努力だけではどうにもならないことというのもある。IT技術がさらに進歩したり、会社の制度が変わったりしないとだめ、という意味においてだ。

私はIT関連の仕事をしているけれど、特にIT業界は様々な「技術的制約」の中で、システム開発を行ったり運用したりしなければならないことが多い。そして、そうした「技術的制約」は、ほとんどの場合、支援テクノロジと相性が悪い。

あまり具体的なことは書けないけれど、例えば、「システム開発」という仕事については、IDEを使いこなすのが全盲には厳しいので、健常者と同じ生産性でコーディングすることは、割と難しい。もちろんIDEなんか使わなきゃいいだけの話だが、どう考えても、構文エラーの箇所に色が着くあのIDEのエディタには勝てない気がする。

もう一つ。「システム運用」の場合、最近は仮想化とかクラウドとか流行だが、そうでなくとも、データセンタにサーバをハウジングするのは当たり前。するとオペレーションはリモートでやるわけだが、会社によっては、自社開発の、全くスタンダードでないプロトコルを使うため読み上げソフトが対応できないこともある。Windows標準のリモートデスクトップのRDPなら、読み上げソフトでも対応しているのに、そういう「謎のプロトコル」をリモートアクセスに使うことによって、なんか読み上げがおかしくてぜんぜん使い物にならない、というケースを聞いたことがある。Unix系サーバにするか、WindowsもSSHでなんでもできればいいのにね。でも、パワーシェルとか、その辺で最近はあれなんかね?

でだ。そもそも、リモートアクセスがうまく使えるとしても、技術的な理由でどうあがいてもサーバ側には読み上げソフトをインストールしなければならない。なので、有償の読み上げソフトならその分のライセンスが必要だ。10台も20台もサーバがあるのに、そんな本数、読み上げソフトのライセンスなんか買ってられない。

特に、名前は言わないけど、その「スクリプトが書ける読み上げソフト」は、高い金をふんだくるくせにローカライズのときになんかバグが混入するのか、著しく品質が悪いためブルスクとか発生するので、業務用のAPサーバになんかインストールしたくない、ということを思ったりもする。そういう意味では、行儀が良くてオープンソースなNVDAをもっと業務で活用できたらいいなあとは思うのだが・・・。

そうそう。もうほとんど愚痴だけど、このように便利そうなツールがあっても、ITの現場は「ツール使うな」という風潮がある。開発部隊のことは知らないが、運用部隊はどっちかっていうと「余計なツールは使わずに、今ある道具で最適の手順を考えろ」的なことをよく言われる。そういうわけなので、新しいツールを使うのが割と大変な手続きになっていたりする。まぁ、最近はマルウェアとかあるので、ゆるすぎるのもいけないとは思うけど・・・。そのくせ「スクラッチならOK」って意味が分からない。

あと、コンプライアンスは重要だが、あまりにコンプライアンス、コンプライアンス言うために、本当に必要かどうか疑問な審査/承認プロセスが介在して、結果的に業務が遅延したり損失が発生したりすることも少なくない。まったく、エンロンが余計なことしなけりゃ・・・。

だいぶ話が反れてしまったけれども、要するに、IT技術が進歩しても、職場によってはそのIT技術の恩恵を受けることができないので、全盲は苦汁をなめることが多い、ということが言いたかったのである。

今日はITにからめて話を進めてきたので、次はIT以外のことで困る話を書こう。

ところで、VDIでシンクライアントを使うのが当たり前に、たぶんもうすぐなるけど、支援テクノロジは対応できるのだろうか・・・。プロトコルがRDPとICAの二つぐらいならまだいいけど、それ以上増えると、対応しきれないんじゃないか?いや、そもそも、リモートアクセスのために追加ライセンスを買わせようとするどこかの読み上げソフトの思想を直すべきかもしれんが・・・。