障害者雇用にはまだまだ問題がある。法定雇用率があるので、大きな企業は障害者採用をやっているし、むしろ「やらざるを得ない」という状況ではあるが、どちらかといえば「やらざるを得ない」という感じが、多くの場合であろう。

一昔前は、企業としてまずは「障害者を雇う」こと、あるいは障害者としては「入社すること」が目標だった。障害者の目標は対して変わらないが、企業側の目標というか目的というか方針は、だいぶ変化しているように感じる。それは、障害者採用が拡大する中で浮き彫りになってきた問題が原因だろう。

私は人事の仕事じゃないし、耳にした話を元に適当に書いているだけなのだが、浮き彫りになった問題とは、たぶん次のようなことである。

  • 雇用が定着しない(あるいは、障害者がすぐ辞めてしまう)
  • 障害者の品質が分かってきたので、選別基準も分かってきた

後者は企業にとって悪いことではないけれど、障害者自身にとっては大変悪いことだ。いや、「弊害がある」というのが正しいかもしれない。

とりあえず「雇用が定着しない」という問題だが、もはや「どこに行っても聞く話」である。採用が目的のころは、何にしてもまずは会社に適合しそうな障害者を採用しなければならないが、ある程度採用数をこなしていくうちに、どこの会社も直面する問題だと思う。

これについては、Webとかでもいろいろ言及されているので、ここであえて説明することもないだろう。後で触れるかもしれないけど。

で、どっちかっていうと個人的には「障害者の品質が分かってきたので、選別基準も分かってきた」という方が重要だ。

書き方があれだけれども、企業の人事担当者で障害者採用に携わっている人は、このように感じている人もいるんじゃないかと思う。障害者採用をしたことがなければ、どんな役割を与えるべきかとか、いろいろ分からないこともあるだろうけど、すべての仕事がそうであるように、経験を積めば、それなりに処理の方法は確立できるものだ。

どこの企業とは言わないけれど。契約社員でも雇用率にカウントされるから障害者は契約社員でしか雇わないとか、研修生という建前で契約社員を雇って雇用率を引き上げたりとか、法律を守る手段は前からある。そして、最近は手段だけでなく、障害者採用の方針とかターゲットも固定されつつあるのではなかろうか。

もっと直接的に言うと、乱暴な言い方だが、「障害者には雑用させておけばいい」とかっていうようなことを、会社として決められるだけの材料はそろいつつあるということだ。それは流石に極端かもしれないが、少なくとも、障害の種別や部位による選別基準ぐらいは作れるだろう。例えば、全盲はイニシャルコストが高いから雇わないとか、車いすの人はイニシャルコストは高いけど生産性は健常者と同じだから雇える、とか。知的障害者には社内便の仕分けをやらせればいい、とか、いろいろ考えられる。

ただでさえ、健常者でも就職が難しい昨今、こんな風に基準に沿って判断したり、型にはめるような感覚を採用担当者が持つと、障害者の就職はますます困難になる。だから、有能な障害者がいても、企業としてはチャンスを逃してしまうことになるのだ(もっとも、有能な障害者はそう多くないし、今の障害者の働かされ方ではそんなに有能な人が育つようにも思えないが)。

まぁ、単なる私の妄想かもしれないので・・・。あまり気にしないで下さい。というか妄想でござんすよ。

ちなみに、最近の障害者求人には「オープンポジション」というのが多いらしい。「立場を限定せず幅広く可能性を期待する」ということらしいのだけれど、私に言わせれば本質は変わってない。「障害者は雇わなければならないが、雇ったところで何をさせればいいかよく分からない」という担当者の思いを表す、使い勝手の良い言葉ができただけだ。

で、いつもだったら、ここで問題を課題に変換したり、解決策を考えたりするわけであるが、今日はめんどくさい。だいたい当事者の俺が考えることだ、会社に原因を求めるだけで自分を顧みない対策になることは必至なので、考えなくてもいいかと・・・。

ただ、かなり批判的に書いてきたけれども、上記の選別基準とかっていう話は、良い方向に働く場合もある、かもしれない。

例えば、ITシステムの製造ラインだと、「1日何ステップのコードを書けるようになれ」とか「1日何件の試験項目を消化できるようになれ」とか、人材に求める生産性が規定されていることがある。もし、そういう数値目標があるのなら、障害者としては「私はその作業を、同じ時間で80%しかできないけれども、別の作業は120%の効率でできるから雇ってくれ」という言い方もできるし、定量的には劣っていても定性的に上回っている、というような趣旨の理屈を使いやすい。

まぁ、選別基準が「偏見」に基づくものではなく、「成果」に基づくのであれば、ということなのだが・・・。そして、過去に失敗したことがなかったり、まだ障害者採用の事例がない企業だったら、ということなのだが・・・。一度障害者採用で失敗すると、それが実績になってしまって障害者採用が停滞することもあるので・・・。

でも、企業の担当者からすると「そう言われてもどうしろっていうんだ!」って感じだと思う。言っちゃなんだが、行政は無駄に雇用率を上げるだけで具体的なことはぜんぜんやってくれないし・・・。事例集とか公開もされているが、あれは事例であって、実際に障害者を雇ったときには「ほとんど役に立たない」。企業側も、障害者側も、本当はもっと細かいレベルのノウハウを必要としているのだ。だって、もしあなたがコンピュータに詳しくないのであれば、インターネットに繋がらないときに「コンパネで設定確認して」だけ言われても、何を確認したらいいんだかさっぱり分からないことだろう。それと同じだ。

あと、なんか思いついたので書くけど。障害者採用のターゲットが「採用」から「定着」に変わってきたという話の延長で、仮に定着ができるようになると、次はどういう変容が起きるのだろうか。

「定着」の問題が解決するには具体的な仕事のメソッドなどをコンサルする会社などが登場しないといけないが、じゃぁそのなれの果てはどうか。障害者の雇用が定着するようになるということは、土台が健常者と同じになるということだ。ノウハウが充実すれば充実するほど、障害者に関する人材派遣やコンサルの市場は狭くなってくる。つまり、障害者の雇用定着に関する仕事で飯を食ってる人たちは、彼らの目標が達成できたとき、仕事を失う。

この構造はIT業界の構造と似ている。もし人間が完璧なシステムを作れるんだったら、人はいらなくなる。不完全な人間だからこそ、人出で運用しなければならないシステムしか作れないし、バージョンアップだなんだとメンテナンスが必要になってくる。これらに対応できるシステムを開発できる人間がいたら、その人間は仕事を達成したと同時に仕事を失う。

っていうか、仕事ってそういうもんだよな。あぁ残念。