女性専用車両。賛否両論あるが、男としては利用してみたいと思うのは自然なことだろう。だって、女しかいないのである。

ところが、いざ乗ってしまうと平常時の妄想は一気に吹き飛ぶ。何も意図的に乗るというのではない。俺のような全盲は、間違って乗ってしまうことがあるのだ。

というのも、今日、乗ってしまったのだ。しかもフルタイム。弁解しておくがわざとじゃない。乗ったときには気づかなかったが、電車が進むにつれて違和感を感じ、とうとう駅員に注意されてしまったのである。

俺がいつも利用する時間帯、一般車両はそれなりに混雑している。しかし今日乗った車両は妙に空いていた。時間があれば車両を変えるところだが、あいにく駆け込み乗車しちゃったのでそういうわけにもいかない。

違和感を感じたのは2駅ほど進んだころ。聞こえてくる会話に男の声が全くない。靴音はヒールのようなものばかり。そして、さらに数駅進んだところで、頭の悪そうな女子高生が「あいつ、きもい」と言っているのだ。「死ねばいいのに」と思いつつ、その時点でここが女性専用車両であると確信した。

気づいた時点で車両を変えればよかったのかもしれない。ただ、だいぶ前に間違って女性専用車両に乗ったとき、車両を変えようとしたら電車が行ってしまったことがあり、その電車を逃すと会社に遅れそうな状況ではやる気になれなかった。

乗っている間、とてもじゃないが妄想なんてできわけがない。「俺は障害者。一応、男でも利用はできる立場にあるんだ」と必死に自分に言い聞かせ、ものすごく後ろめたい気持ちで電車にゆられること25分。

会社の1つ手前の駅でとうとう駅員に声をかけられた。「そこの男性のお客様!ここは女性専用車両ですから降りてください」と。いや・・・だから、俺はさっきからずっと降りたかったのだ・・・。

とりあえず白杖と障害者手帳を見せたら、その駅員は納得してくれた。けれども、もうこんな後ろめたい気持ちで電車を利用するのはごめんだ。

ということで、「障害者っぽい人でも、女性専用車両に乗りそうになってる男を見つけたら声をかけてくれ」と、鉄道会社に電話しておいた。効果があるのかどうかは分からないが・・・。

さて、今日の体験を踏まえ、女性専用車両に対して日頃から思っていることも含め、少し考察してみよう。

まず、俺は女性専用車両を否定はしない。が、設置場所については言いたいことがある。一番後ろとか、一番前の車両が女性専用ならそう問題はないが、真ん中付近に女性専用車両があると困る。今日ひっかかったのはこのタイプである。「5号車が女性専用です」とか言われても、5号車ってどこやねん?

ただ、当初は末端の車両を女性専用にしようと計画していたが、「階段から遠い」という身勝手な主張が利用者から挙がったおかげで、真ん中付近に女性専用車両を設置したという事情もあるようだ。だが、全駅でそうならともかく、駅によって階段の場所がばらばらなんだから、そういう主張が通るのもおかしな話だ。主要駅だけを基準に考えないでほしい。

次に「お体の不自由な男性の方もご利用いただけます」というスタンス。まぁ、これは逃げ道としては必要であろう。例えば一般車両は混雑していて車いすが乗れないとき、比較的空いている女性専用車両で我慢してもらうということができるからだ。まぁ、車いす利用者にとっては迷惑な話かもしれないが、そこらへんは物理的な制約もあるということで・・・。

ただ、「お体の不自由な方」って、具体的にだれですか?「身体障害者手帳保持者」という定義であれば、鉄道会社としての対応に破綻はないと思う。でも、それって女性専用車両の利用者からするとどうなんだろう。というか、一般的に、目が見えないとか、耳が聞こえないって「体が不自由」なのか?身体機能の一部に傷害があるにはあるが、一般的なイメージと少々違うような気がするのは俺だけだろうか。

そういったことにあまり関心のない女性が、女性専用車で男を見たとしよう。普通「きもい」と思うだろう。そして、「何故周りの乗客は注意しないのだろう」と疑問を持つに違いない。そう、今日俺が見た「頭の悪そうな女子高生」のように。

で、結局どうしたらいいかというと、もっと利用客を限定すればいいと思うのだ。「車いす利用者」とか、その他駅員が必要と認めた人、とか。ちょっと法律っぽいが。ただ、そうした場合、該当しない障害者が間違って女性専用車両に乗らないよう、鉄道会社が対策をしなければならない。俺が要望したように、係員が声をかけるなどして。これは多少面倒なことなので、鉄道会社としては採用しない可能性が高い。

最後に、女性専用車両を利用する女性客にも一言言いたい。お願いです、男の障害者が乗ってきたら「ここは女性専用車両ですけど・・・」と教えてやってください。モラルのある人ならすぐ降ります。車内放送で「女性専用車両にはお体の不自由な男性のお客様もご利用いただけます。お客様のご理解を・・・」みたいなことは無視していいです。ただし、女性の介助者と同伴の場合は注意していただきたい。あくまでも、「単独で乗ってきたやつ」にだけ声をかけてもらえると有り難いです。男の介助者と男の障害者の場合は微妙だけど、うーん、俺はそういう人には乗らないで欲しいと思う。車いすとか、そういう明らかな事情がない限り。

逆にいうと、男の介助者が乗る場合、同伴者が女性だろうが男性だろうが、周りの乗客で一応「すいません」とか声をかけて、事情を理解してもらおうとする姿勢を見せるのが筋だとも思う。それなら大半の女性客は納得してくれるのではないだろうか。

まぁ、乗ってきた男に声をかけるというのは、女性からすると声をかけにくいかもしれない。ましてや鉄道会社は利用を許容している障害者に対しては。けれども、そこらへんは一つ、勇気を持ってお願いしたいところである。そこで逆上するような男は、思いっきり人権を踏みにじってかまわないので。

以上。