「インカ帝国の成立」という曲(動画がYouTubeにあります)。

これはインカ帝国が成立するまでの出来事を歌にしたもので、史実に基づいたアカデミックな内容となっている。ほとんどの日本人はインカ帝国の存在は知っているものの、その成立や滅亡などについての知識は皆無と言って良い。この曲はそんな日本人が少しでもインカ帝国について学ぶ機械を与えるであろう。

作詞、作曲、歌を担当するつボイノリオ氏は、過去に吉田松陰に関する曲も手がけている。しかし、今回の「インカ帝国の成立」は日本の歴史ではなく外国の歴史である。インカ帝国について取り上げたことを、つボイノリオ氏は次のように語っている。

「ペルーは日本と非常に関わりが深い国であるのに、日本人は過去から現在に至るペルーについてほとんど知らない。何故かというと、教育されていないからに他ならない。我々の祖先がベーリング海を渡り北米から南米へ移動したことからも、ペルーと日本の間には強い繋がりがあることが分かる。だから、私が日本の教育の一端を担うような役割をしようと思った。」

これは『「インカ帝国の成立」の成立』という番組でつボイノリオ氏が述べていたことをまとめたものである。

ここではインカ帝国に関してあえて触れず、曲を聴いていただいたり、ウェブでインカ帝国について調べていただくことによって、読者にもインカ帝国に対する知識を深めてほしいと期待する。

だが、教育の中でインカ帝国が軽視されている理由には触れておかねばなるまい。

元来、日本の教育では古代の4大文明として、エジプト文明、シュメール(メソポタミア)文明、インダス文明、中国文明が取り上げられている。これらは考古学者の間でも、古代文明の中心的なものとして深く研究されてきたからである。

一方、これまで考古学者たちは南米のメキシコ・マヤ、アステカ、インカの文明についてはほとんど興味を示していなかった。これらの文明が成立していたころ、ヨーロッパでは都市同士の交流が盛んで、多種多様な文化が混じり合い、大きな文明が気づかれていたのに対し、インカやアステカ、マヤは山脈や海などで他の文明とは孤立しており、その地域だけの部族で文明を構成せざるをえなかったのである。

すなわち、文化の交流があった文明の方が発展を遂げ、孤立していた文明はそうでもなかったという思いこみがあったのであろう。インカやアステカがヨーロッパ人によってあっさり滅ぼされたという経緯もある。

ところが、実際にはその逆で、ヨーロッパの都市に大きな建設物が無かったころに、既にインカやアステカ、マヤには大きな神殿が建設されていたという。

そして、インカ帝国に限っていえば、初代の王であるマンコ・カパックがネックとなっている可能性は高い。王マンコの業績は歴史学者からは評価されているが、育ち盛りの中学生が読む教科書に「マンコ・カパック」とか「王マンコ」などという記述をするのには問題があると、教科書編集委員は考えたに違いない。

つボイノリオ氏は、前述のインタビューの中で、こうしたインパクトの強い人名・地名が教育の中に現れないことにも触れている。バリ地方のキンタマーニという村、オランダのスケベニンゲンというリゾート地、南太平洋のエロマンガ島などである。

これらは、おそらく一度聞いたらぜったいに忘れない地名だ。エロマンガ島には「イロマンゴ島」という呼び方もあるようだが、「エロマンガ島」の方が覚えやすい。

しかも、エロマンガ島には、19世紀半ばから広範にかけて、フランスやイギリスから宣教しが派遣されるも、原住民に殺され、報復として島を軍が占領したという歴史もある。宣教師来島以後、オーストラリア開拓のための奴隷狩りに訪れた商人が原住民に殺され食べられる(原住民には食人の風習があったようである)などの事件が起き、島の統制を取るために軍が島に上陸したが、原住民への報復を正当化するだけの役割しか果たさず、効力を持つ行政機関が設置されたのは20世紀に入ってからだそうだ。

こうした知識は、歴史や地理にぜんぜん興味を示さない子供に、歴史や地理に興味を持つきっかけを与えるのではないかと考えられる。実際、こうして筆者はエロマンガ島の歴史について学び、そこからイギリスやフランスの宣教師派遣について学びたいと思うように至ったのである。

ちょっとしたきっかけで、こうしていろいろなことに興味を持てるはずの子供たちが、大人の勝手な言い分でそうした機械を奪われていることを、私は悲しく思う。一応教員免許を持っている身として(数学の免許だけれども)。

そのようなことで、読者の皆様には、つボイノリオ氏のユーモアを通して歴史や文化に興味を持っていただきたいなあと思う次第で・・・。

私も大好きですよ、王マンコ。尊敬すべき王である。指でつつかれても、敵になめられても、激しく、ときには後ろから攻められても、矢で貫かれて少し血が出ても、兄弟姉妹との結婚が禁じられている中、王自ら妹と結婚しても、私はマンコ・カパックを尊敬する。

■(参考)